見えない記憶を探る『ガラスの殺意』

小説

当記事は著『ガラスの殺意』の書評です。

記憶障害の容疑者、母を介護する女刑事。二人の視点で話は展開します。

どちらも読んでいて心苦しくなってくる描写があります。

これはサスペンスミステリーでもあり、家族愛のお話でもあります。

『ガラスの殺意』とは?

『ガラスの殺意』あらすじ


「憎きあいつを殺したのは……私!?」二十年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。
警察に「殺した」と通報したのは、同じ事件で愛する両親を失った女性。
だが、彼女はその現場から逃げる途中で交通事故に遭い、脳に障害を負っていた。
警察の調べに対し、女性による殺害の記憶は定かでない。
復讐は成し遂げられたのか、最後に待つ衝撃の真相とは?
驚愕の長編サスペンス・ミステリー!

『ガラスの殺意』感想・レビュー

Point1.記憶障害

容疑者は記憶障害。たびたび今の自分がわからなくなる。

思い出すたび、年齢はバラバラ。

前後の行動が忘れてしまう。家事や料理も難しい。

自分の弁護ができない。状況説明ができないのだから。

新しい知り合いをつくりにくい、狭い世界。

その世界ですら、毎回自分の書いた文字を見て構築するしかない。誰を信用していいかわからない。疑心暗鬼にもなる。

毎回味わう新たな感情、どんな心境で受け止めているのか、全く想像できないです。

私の記憶はまるでガラスのようだ。確かにそこにあるとわかっているのに、見ることができない。

Point2.介護

介護は自分には遠い話だと思っていた、と介護の話を聞くとき、読むときには大抵言っているような気がします。

でも、介護が他人事である人の方が実際は少ないでしょう。

親は子にとって先を行くもので、人間で、大抵先に死ぬ。

介護はそれ自体が仕事になるのだから、大変なものです。金銭的に、体力的に、精神的に。

親族のかつてとのギャップに驚いて、受け入れられなくて目をそらしたくなってしまうかもしれません。

どうしてわたし、母の介護に対価を求めているんだろう。どうして無理やり金銭的な価値を見出そうとしているんだろう。どうして得をしようとしているんだろう。
優香が生まれてからこれまで、母は無償の愛を注いでくれたというのに。それなのになぜ、自分は無償で返そうとできないのか―― 浅ましい自分に愕然とし、恥じた。

Point3.捜査

今回の捜査はかなりレアなケースだと思います。

容疑者は自分のことを話せない。近親者は夫だけ。現場は周囲の目がなく、監視カメラにも映っていない。

交友関係の狭さゆえ、調書も少ない。

少ない情報のせいで、わずかな情報にすがってしまう。目の前にある安易な都合のいい答えを信じたくなってしまう。

それ以外見えてなくなってしまいがちです。

冤罪の可能性もありえる、怖い捜査だなあと思いました。

『ガラスの殺意』の著者について

2008(平成20)年、短篇「雪の花」でYahoo!JAPAN文学賞を受賞。2009年に『雪の花』でデビュー。他の著書に『暗黒女子』『婚活中毒』『ジゼル』『サイレンス』などがある。

『ガラスの殺意』の感想・まとめ

記憶喪失ならアニメや漫画でよく見る設定です。でも、事故の障害でのリアルな様子の記憶障害は、本当につらく、怖いものだと思いました。

知らないうちに時間がたっていて、知った人間はいなくて、不安ばかりでしょう。

記憶障害をもつ人の視点の描写、読むたびに主人公の年齢が変わっているので読者も困惑します。

過去の自分が記したノートを「玉手箱」のようだ、という表現は新鮮でした。

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