命について考える小説 3選

おすすめ作品

お盆期間ですが、
お墓参りにいかれた方は
どのくらいいるのでしょうか。

死生観は宗教、地域、故人や親族の
影響によってなど様々ですが、
自分の命の終わりについて
考えたことがある人は多いと思います。

明るく楽しいお話ではないのに、
どうしてこういったテーマを扱った作品は
多いのでしょうか。

息苦しくても『どうしても生きてる』

死んでしまいたいと思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(「健やかな論理」)尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が写されているような気がした。(「そんなの痛いに決まってる」)生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(「籤」)等鬱屈を抱え生きぬく人々の姿を活写した、心が疼く全六編。

どの話も、
平凡な人間のささくれている時の思考が
露わになっています。
人の汚さ、弱さ、狡猾さ・・・。
どうしようもない、
やるせない感情であふれていました。

1話目がとくに印象に残っています。

人が自殺するのに
明確な理由はないのでしょう。
死ぬ前にだってSNSは更新するし、
明日の予定も立てたりする。
推理小説みたいに、
全てが理論立ってるわけではないのです。
人は理性的な生き物ではないと
思い知らされます。

ふとした瞬間に全てがどうでもよくなる。
生きるのがめんどくさくなる。
その心境に自分も覚えがあるのを
認めたくなく、
同じ感情を抱く人がいることに
どこか安心してしまいました。

劇的なお話はないです。
ただふとある嫌な出来事、
思考を集めたものですが、
心が救われる文章でした。

死は悲劇か『世界の美しさを思い知れ』

蓮見貴斗と尚斗は一卵性双生児。弟の尚斗は人気俳優だったが、遺書も残さずに自殺した。葬儀を終えて数日後に尚斗のスマホが見つかり、貴斗が電源を入れると顔認証を突破できてしまう。未読メールには礼文島行きの航空券が届いていた。自殺したのに、どうして旅行に行こうとしたのか。その答えを知るために貴斗は旅立つ。人気絶頂で自殺した愛する弟は何に悩んでいたのか。止められなかった自らの後悔を胸に世界を旅する貴斗。「生きること」と「死を受けとめること」の意味を問う、感動のロードノベル。

このお話がもしミステリーなら、
探偵がこれから自殺する人が
旅行の予約なんかす
るわけがない、
きっと殺人事件だよ、
と言ってトリックを暴き、
犯人を特定するでしょう。

でも、これは主人公が弟の死を
受け入れるための旅物語。

描かれる世界は美しく、
旅に出たくなりました!

私が思う日本のお墓は、
静かでおごそかな印象です。

だけど、作中に出てくるラパスのお墓は
とても色鮮やか!
花や織物で飾られ、
にぎやかな感じだそうです。

きっとお墓には生者の願望も
反映されると思います。
死んだらそっとしておいてほしい。
安らかでいてほしい。
笑っていてほしい。

亡くなった人や自分が死後、
こうあってほしいという願いが
あるのかもしれません。

自殺する人の気持ちは、
当人だけしかわからない。
予想や妄想はいくらでもできるけど、
理解はできなさそうです。
だって、今隣にいる人のことでさえ、
どれだけわかっているって言えるでしょう。
わからないという事実を受け入れるのは、
きっと難しいです。
人の死に、折り合いをどうつける?
つけられるものなのでしょうか?

でも、もしあの世があって、
死んだ大事な人に会えるなら、
会ったときに何を伝えよう。

それはきっとポジティブな言葉がいいです。
素直に告げるためにはどう生きよう。

そんなことを考えられるなら、
あの世があった方が
ちょっと前向きに生きられそうです。

死を望む者の最後の砦『さんず』

<さんず>の専用ホームページに出てくる二つのコース、「よりそいプラン」と「もろともプラン」。申し込みの際、いずれかのプランを選ぶと<さんず>に導かれ、思いがけない結末へと誘われる。
●店長のパワハラ・セクハラに心を壊されたコンビニ店員の末路は
●刑務所に収監されている男を思い続ける女の選んだ道は
●ある富豪から蝶のコレクションの譲渡先を見つけて欲しいと依頼が入り・・・
●さびれた居酒屋店主が借金を苦に・・・
●赴任先の学校で、上司の玩具にされた女性教師が追い詰められて・・・
連作短編全5篇。
死を望む者の最後の砦<さんず>を通して、生きることの意味を問う。

〈さんず〉は事前に自殺したい人を見つけ、
その場に立ち会うお仕事です。

自殺者たちの心残りを晴らす。
最後の晩餐を用意する。
〈さんず〉の仕事ぶりは徹底していて、
生への無念を減らすために努めてくれます。

自殺を勧めているようにみえますが、
最も自殺を止めれる立ち位置にいるのが
彼らでもあるので、
なんだか落ち着かない気持ちにさせます。

人が側にいることで、
自殺者の暗く重い雰囲気を
小説の場面的に和らげもしますが、
救いはありません。
読んでいてもやもやします。

自殺者が最後に思い残したことは、
近くで見ていればわかるのでしょうか。
「死ねば解放される」という言葉は
結局証明できないものだと思いました。

まとめ

全体的に重めです。
人を選ぶ作品かもしれません。

『世界の美しさを思い知れ』だけは、
明るい感じがします。
でも、空元気みたいな、
取り繕って自身が限界に近いような
奇妙な明るさに近いです。

死は、いずれは皆に訪れるもので、
考えても意味がないことかもしれません。
でも、人は考えずにはいられない。
自分の命の最後を想像せず、
理解できず、終わらせたくないから、
こういったテーマの作品はなくならないのだと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました